首切り地蔵 -田丸-
なにげなく通り過ぎてしまう村の境や、川岸、橋のたもとなどで、童顔のお地蔵さんを見かけます。
この首切り地蔵さんも田んぼのまん中で400年ほど前からたちつづけ、今なお人々の信仰をあつめているお地蔵さんです。
そして、こんなお話があります。
「勘助さんは、足が悪いのに朝早くからどこへ行くんじゃ」
隣に住んでいるじいさんが問いました。勘助さんは、足を引きずり不自由な体でも、にっこり微笑んで、西光寺(さいこうじ)の裏の方へ歩いていきました。
「隣のじいさんは、調子がえいのう。いつもニコニコと」
と勘助さんの後ろ姿を見送りながら、足で戸をけとばして家の中へ入っていきました。
小作人である勘助さんの暮らしは、けっして楽だとは言えません。取れた農作物の半分以上は小作料として地主さんに納めなければならないのです。それでも勘助さんは、足が不自由なのを辛抱して、一生懸命仕事をし、まじめに暮らしていました。
そして農作業に出かける前には、必ず首切り地蔵さんにお参りに行っていたのです。この首切り地蔵さんは、悪いことをした人達が処刑され、その供養にと建てられたお地蔵さんでした。
勘助さんは、どんな悪いことをした人でも死ねばみんな仏になると信じて、お地蔵さんにお参りしていました。そのことを知らない隣のじいさんは、勘助さんが毎朝早く出ていくのが気になっていました。
いく日かたったある朝、勘助さんが軽い足取りで、出かけていくのを隣のじいさんが見ていました。
「おや!足を引きずっていたのにいつの間に……」
とキツネにつままれたようでした。
やがて、勘助さんが首切り地蔵さんにお参りしているおかげで、足がなおったといううわさが広がると、それを聞いた足の痛い人達がお参りに訪れるようになり、お地蔵さんには、次々に新しいよだれかけが掛けられるようになりました。
それでも隣のじいさんは、
「そんなことが本当にあるものか」
と今日もまた、仕事をせず戸をけとばして、
「アイテッテ……」と足を引きずって家の中へ入っていきました。
それから90年余り…、お地蔵さんをお参りし、なでて痛いところを擦るとなおるという信仰は、時の移り変わりにかかわりなく生きつづけています。
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