佐田山のキツネ -佐田-
むかし佐田は松林におおわれて、小高い丘にはキツネのすみかがあり、村人達は日暮れになるとキツネが出るといってうわさをしていました。
秋祭りのある夜、親戚によばれに来ていた村人が、お土産にキツネの好物である稲荷寿司をいっぱい入れた包をいただいて帰ることになりました。
「おなかも満腹になったし、いいきぶんじゃ」
と提灯の明かりで松林の中ほどにさしかかった時、
「コンコン、コンコン」
と後ろから鳴き声がします。振り返るとコトンと何かが突き当たり提灯はスーッと消え、持っていた稲荷寿司はなくなっていました。
「あれぇー」
と腰を抜かした拍子に消えたはずの提灯が、パッとつきびっくりした村人は、
「たっ助けてくれー!」
一目散に逃げてきたということです。
また、ある村人はお祭りの御馳走を片手にお酒をいただいた赤い顔でフラフラと松林を歩いていると
「コンコン、コンコン」
と女の人が手招きしています。
村人は口をゆるめて、その人のあとをついていくと、お湯につかるようにと言います。村人はあわてて着物をぬぎ湯舟につかりました。
ところが、この村人の帰りを首を長くして待っているかみさんが、まだ帰ってこないと言ってきました。
「なぁに三時間も前に帰った」
といい、みんなで手分けをして探しました。
すると、山の道筋にある肥えだめの中で
「いい風呂じゃ」
と笑って入っているのです。
みんなはあわてて引き上げました。いつの間にかお土産の御馳走は消えてなくなっていました。
こうして、キツネに化かされた。という話があちこちでささやかれるようになりました。
キツネは、食べ物の神の使いであるといわれ、佐田の人達は食べ物の神様である稲荷さんをということで、キツネのすみかに稲荷神社をまつりました。それからは、
「コンコン、コンコン」
という鳴き声は聞こえても、キツネに化かされた。という話は聞かなくなりました。
今はミマス株式会社とJR参宮線(さんぐうせん)の間にまつられ、初午(はつうま)の日に旧佐田村の人達によってお祭りが行われています。
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